「植物の不思議なちから」ヘマ・マテオス著 山本朝子訳
「植物の不思議なちから」ヘマ・マテオス著 山本朝子訳
太古から、植物は人間の営みに欠かせず、食料や衣料のほか、薬として、さらにまじないや儀式にも使われてきた。
本書は、伝承や神話で不思議なちからを持つとされた植物たちを紹介するビジュアルブック。
「ヤロウ(セイヨウノコギリソウ)」は、ネアンデルタール人も使っていたという古い付き合い。
その白い花には傷口をふさぐ薬効があり、中国では占術に用いられるなど、世界各地のさまざまな文化に登場。さらに心の傷を癒やす優れた力があるとされ、「母なる自然の護符」とも呼ばれるお守りのような植物だという。
「カレンデュラ(マリーゴールド・キンセンカ)」は、ギリシャ神話で官能と愛の女神アフロディーテの涙とされる。恋人が命を落としたとき、アフロディーテの落とした涙が地面に触れ、カレンデュラになったと神話は伝える。
優れた殺菌効果などの薬効のほかに、災厄を遠ざけ、光と愛を引き寄せると、さまざまな民間信仰の儀式で用いられる。
こうした植物72種を「家をまもる」「悲しみを乗り越える」など6カテゴリーに分けて紹介。
「幸運を招く」というカテゴリーで紹介される植物のひとつ、ナス科のマンドレイクは、毒性が強く黒魔術にも用いられてきた。一方で、紀元前から媚薬や子宝のお守りなどとして使われ、1世紀以降は麻酔薬として、さらに近年ではその成分がパーキンソン病の治療薬にも用いられている。
また「恋に、愛に」というカテゴリーで紹介される「カボチャ」は、東洋では繁殖力や豊かさの象徴として新郎に贈る風習があるが、ヨーロッパでは「カボチャをやる」は相手との関係の拒絶を意味するという。
そんなお馴染みの植物の意外な顔、また初めて知る植物の神秘な力に触れられるおすすめ本。
(グラフィック社 2970円)