「まどうてくれ 藤居平一・被爆者と生きる」大塚茂樹著
「まどうてくれ 藤居平一・被爆者と生きる」大塚茂樹著
昨年のノーベル平和賞は、被爆者の立場から核兵器の廃絶を訴えてきた日本被団協(日本原水爆被害者団体協議会)に授与された。
本作は日本被団協の生みの親、藤居平一の生涯を描いたノンフィクション。
原水爆禁止運動や反核運動に携わってきた著者は、若い人にも読んでもらいたいという願いから重い内容を平易な文章で書いていて、被爆者の苦しみと日本被団協の歩みを知る格好のテキストになっている。
広島市に生まれた藤居は、原爆で父と妹を失った。当時、早稲田大学の学生だった彼は、原爆投下から17日後に広島にたどり着き、故郷の惨状を目の当たりにした。戦後は家業の銘木店の3代目社長に就任、地域の民生委員なども務めるなかで声なき原爆被害者の苦悩の深さを知る。
1954年から5年あまり、藤居は社長業と私財をなげうって原爆被害者の救援と原水爆禁止運動に全力を注いだ。56年に日本被団協が誕生したとき、藤居は初代事務局長となる。孤立していた原爆被害者が結集して声を上げ始めたとき、その先頭には熱きリーダー、藤居がいた。
原爆被害者の誰からともなく語られた「まどうてくれ」は、「償ってくれ、元に戻してくれ」を意味する痛切な言葉だ。藤居もこの言葉をよく使い、傷つきながら置き去りにされてきた人たちの救援に奔走、その努力は57年の原爆医療法の制定につながった。日本被団協の役員を離れた後も終生、「広島、長崎の庶民の歴史を世界史にする」という思いを持ち続けた。
核抑止力に依存する危うい「平和」さえ揺らいでいる今を、藤居はどう見るだろう。核に鈍感になってきた同胞を危惧し、叱り飛ばすのではないだろうか。
(旬報社 1540円)