主人は仕事を選び、枯れ木が静かに倒れるように亡くなった
臨終間もない人に無理やり水を飲ませ、あるいは過剰な点滴をするなど、まったく不必要なことも行われている。
そうした死の現場で、常に人の死について考えてきた玉置さんは、近年、「死」が日常から遠く離れていっているような気がした。
医療機関に「老」「病」「死」を丸投げするようになり、死の存在自体をリアルに感じられない家族が増えているからである。
玉置さんは、7年前に最愛の夫を自宅でみとったことが自らの「死生観」を確固たるものにした。
再発がんの治療に背を向けた主人は、入院や副作用に苦しむ抗がん剤の服用も拒否。自宅で寝起きしながらカメラマンとしての仕事を貫き通し、家族にみとられながら62歳の人生の幕を閉じた。
「自宅で亡くなる人は、およそ10%といわれています。主人もそのひとりでした。本人の意思で、死ぬまで好きな酒を飲みながら仕事を選択したのです。ちょうど枯れ木が静かに倒れていくようにして身を横たえ、目を閉じました。自然体のままの死に方です。最高に近い死に方ではなかったでしょうか。もちろん終末治療を否定するわけではありません。でも最期をどう迎えるかは、何よりも本人の幸せを考えてあげて、まず本人の意思を尊重してあげることでしょうか」