口<上>専門医がすすめる口の老化チェックと「噛みトレ」3種
加齢により進行する足腰の衰えを自覚する人は多いが、口の衰えは気づきにくい。歯が抜け始めたときに初めて気づく人も多いはずだ。しかし、毎日歯を磨いていても、歯医者で虫歯や歯周病の治療をしていても、口の老化は少しずつ進行する。東京銀座シンタニ歯科口腔外科クリニック(東京都中央区)の新谷悟院長が言う。
「歯が抜けていなくても、早い人では30代後半から、そして誰でも加齢とともに口は衰えていきます。老化は目からという人もいますが、それは老眼になってピントが合いにくくなって、老化を実感しやすいからです。しかし、実際のところ老化は口から静かに始まり、口の老化が全身へと広まっていくのです。その加齢とともに食べる機能が低下していく状態を『オーラルフレイル(口の虚弱)』と呼び、歯科医の多くが警鐘を鳴らしている問題なのです」
口の老化の最大の原因は、口や顎周りの筋肉の衰え。歯と歯茎の強さもここが大きく関わってくる。そして現代人は、昔と比べて口が衰えやすい状況にあるという。「硬いものを食べることが少なくなった」「核家族や少子化で、大人数で話す機会が減った」「SNSの普及」など、昔と比べて口を動かすことが圧倒的に少なくなっているからだ。
口が衰えてくると、「滑舌が悪くなった」「少食になった」「口が乾く」「時々むせる」「硬いものが食べられなくなった」などの症状が表れてくる。
口や顎周りの筋肉が衰えているかどうかチェックする方法がある。
■口の老化チェック
①両方のこめかみ部分に両手の親指を当て、少し強めに押してみる。痛みを感じる場合は、老化している可能性がある。
②両方の奥歯の上(頬)のコリコリとした部分に両手の中指を当て、少し強めに押してみる。痛みを感じる場合は、老化している可能性がある。
「『口の老化チェック』で確認しているのは、口や顎周りの筋肉がどれだけ硬くなっているかです。口を開閉したり、舌を動かしたりする筋肉が硬くなると、可動域が狭くなり、口内の重要な3つの能力が低下します。それは、①十分な唾液量を分泌する『唾液力』②歯で食べ物を噛み砕く『咀嚼力』③食べ物を食道に運ぶ『のみ込み力』です」
この3つの能力が低下すると、食べ物から摂取する栄養が不足する、食べ物を誤嚥しやすくなる、唾液によるウイルスや細菌の防御ができなくなる、歯や歯茎が劣化しやすくなる、血流が悪くなる、などの理由から「全身の虚弱(フレイル)」につながっていくのだ。
しかし心配は無用。口や顎周りの筋肉は、足腰の筋肉と同じでほぐしたり鍛えたりすることで、健康な口を取り戻すことが可能だからだ。
そこで新谷院長が勧めるのが、「噛みトレ」と称する3種類のトレーニング。これを1日1回ずつ続ければ、口の衰えを防ぐことができるという。
■1、2の3ストレッチ
耳の前、顎の下、舌の裏側にある唾液腺を刺激する筋肉をほぐして、唾液の分泌を促す。
①口を軽く開けて、下顎をゆっくり前に限界まで突き出す。②1、2の3のリズムに合わせて3回、口を開閉する。③3回口を開閉したら、プーッと頬を膨らませる。①~③を5回繰り返す。
■ムンクの叫びストレッチ
顎とこめかみの筋肉を手のひらで軽くマッサージして緩める。
①奥歯を強く噛んだときに膨らむこめかみの部分に両手の手のひらの根元を当て、軽く口を開け、軽く押し込みながら10秒間グリグリ回す。②奥歯を強く噛んだときに膨らむ頬骨の下の部分に両手の手のひらの根元を当て、軽く口を開け、軽く押し込みながら10秒間グリグリ回す。①と②を3セット行う。
■欲しがりストレッチ
顎周りと、のど周りの筋肉をまとめて鍛える。
①大きめに口を開け、人さし指と中指をそろえて第1関節くらいまで口の中に入れ、下の前歯(真ん中)の裏に当てる。②口の中に入れた2本の指で下顎を押し下げ、下顎に力を入れ5秒間キープ。指と下顎の力を抜き、下顎を指で押し上げる前の位置に戻す。これを5回繰り返す。
「血行が良くなる入浴中や入浴後に3種類をまとめて行うのが理想ですが、1種類ずつ別の時間帯に行っても構いません。とにかく1日1回続けることです。また、実践中に痛みを感じたら、すぐに中止してください。顎に痛みや違和感がある人は、事前に医師に相談してから始めてください」
次回は、歯と歯茎を丈夫にする習慣を紹介してもらう。