大掛かりな手術では術中から血栓ができやすい状態になる
足の骨折や股関節など下肢の整形外科手術を受けた後、療養中に運動量が減ってしまうと、足の静脈に血栓ができる「深部静脈血栓症」、その血栓が血流に乗って心臓まで移動し肺の動脈に詰まる「肺血栓塞栓症」を起こすリスクが高くなると前回お話ししました。いわゆる「エコノミークラス症候群」とも呼ばれ、死亡リスクが高い深刻な病態です。さらにこれは下肢の整形外科手術だけではなく、がんや内臓疾患での大きな手術でも生じるリスクがあります。
実際、こんな経験をしています。かつて私が研修医時代に担当した大腸がんを手術した患者さんが、10年以上経過して大腸がんの再発を来し、心臓疾患の疑いもあって私の外来を受診されました。その際、「○○さんですよね。前回の手術の時、担当医として私もそこにいたんですよ」と声をかけると、「え、本当ですか!」と話が弾み、検査も問題ないことから「手術、がんばってください」と送り出しました。しかし、その患者さんは大腸がんの手術後、間もなく亡くなってしまいました。術後、肺血栓塞栓症を起こしてショック状態となり、突然死してしまったとされています。