心毒性のある抗がん剤を使っているがん患者は心不全に注意
しかも、アントラサイクリン系の心毒性によって発症した心筋症(心不全)は5年生存率が50%以下と極めて予後不良といえます。この手の心不全はなかなか見つけにくい側面があり、対応が遅れてしまうケースが少なくないからです。
アントラサイクリン系の副作用による心不全は、心臓の拡張能が落ちてくることで発症します。拡張障害の初期段階は、大学病院などの規模の大きな病院で採用されている高感度な心臓エコー装置ならすぐにわかるのですが、中小病院や循環器専門医がいないがん専門病院で使われているような装置では発見できません。病態がかなり進行して症状が現れてから見つかるケースが多いため、どうしても対応が後手後手になってしまうのです。
さらに、がんを治療中の患者さんは、抗がん剤やがんそのものの影響で貧血や低栄養を起こしている傾向があり、心不全の代償作用が崩れやすい状態になっています。代償作用というのは、心不全によって心拍出量や血圧が低下して腎血流量が減ると、交感神経系やレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系などが活性化して心臓の収縮力や心拍数を増やし、心拍出量を維持しようとする働きです。これがうまく作用しないため、ちょっとした心機能の低下で日常生活がまったく送れないような状態の悪い心不全を招きやすいのです。