認知症の「妄想」で起こる近隣トラブル…具体的な対処法は?
認知症に伴って生じる症状のひとつに「妄想」があります。妄想にはいくつか種類があり、よく知られているのが「物盗られ妄想」です。この場合は「財布を盗まれた」などと真っ先に家族を疑うので、家庭内の問題でとどまります。しかし、「被害妄想」や「嫉妬妄想」は、家庭内だけでなく近隣住民も巻き込む可能性が高い。トラブルによって住みづらくなり、引っ越しを余儀なくされるケースも少なくありません。
妄想は、認知症の方の約15%に見られ、初期に現れやすいのが特徴です。アルツハイマー型認知症の他にも、レビー小体型認知症では、幻視や誤認などの特有の症状から妄想が起こりやすい。また、前頭側頭型認知症では前頭葉の障害から抑制が取れたり、善悪の判断ができなくなるので、近隣住宅に怒鳴り込むなど衝動的な行動を取ることがあります。よく「近所の人が家の庭に入ってゴミを大量に捨てていく」といった相談を耳にします。脱抑制や判断力の低下で「他人の庭は勝手に入ってはいけない」と考えられなくなり、不法侵入を繰り返すのです。
また、認知症の初期に、嫉妬妄想からパートナーの浮気を疑う女性患者さんを診ることがあります。「夫が隣人と浮気をしていてお金を貢いでいる。夫の携帯にやりとりが残っていた」と訴え、目星をつけた女性に電話をかけたり、時には怒鳴り込みに行くのです。ですが、実際には浮気の事実はありません。私が夫に「若い頃はどうでしたか?」と尋ねると、「昔はかなり遊んだけど、妻に何か言われたことはない」といいます。認知機能の低下により、今まで我慢していた妻の感情が爆発し、嫉妬妄想の症状が現れたのです。