認知症の「妄想」で起こる近隣トラブル…具体的な対処法は?
一方で、「挨拶したのに無視された」という被害妄想から、相手の住民のポストに汚物を入れたりする嫌がらせをした患者さんもいます。こうした異常行動は認知症の症状なので、刑事罰には問われなくても、警察沙汰になると家族も相手も大変です。このような場合は、家族が近所の人にあらかじめ認知症であると伝え、認識してもらっておくとよいのですが、近所の手前なかなか難しいかもしれません。
妄想で家族や他人とトラブルが生じる場合には、妄想を軽くする非定型抗精神病薬の服用が必要になります。ですが、妄想は自覚するのが難しく、本人は実際に起こった出来事だと強く思い込んでいるので「妄想を抑える薬を飲みましょう」と伝えると拒否します。こうした患者さんに対しては「家族や近所とトラブルが起きると自分でもつらいでしょうから、気持ちが楽になるようにしましょう」とオブラートに包んだ言い方で促したところ、自ら服用を始め次第に症状は治まりました。
また、認知症になると外出する頻度が減って家族としか関わらなくなる傾向があります。それでは社会性が失われ、周囲との関係を円滑に保てなくなります。社会性は家族以外の他者との交流を通して取り戻されます。デイサービスなどを利用して他者との交流を増やすと、妄想から起こる異常行動を防げる可能性があります。
▽井関栄三(いせき・えいぞう)1979年新潟大学医学部卒業後、同大学大学院進学。84年横浜市立大学医学部精神医学教室入局、2010年順天堂大学医学部精神医学教授を務めたのち、16年シニアメンタルクリニック日本橋人形町を開院し、院長を務める。