自動車の「ペダル踏み間違い」事例で読み解く事故リスク…奈良や北海道で暴走相次ぐ
車のブレーキとアクセルを踏み間違えて暴走する事故が相次いでいる。多発する事故を受け、2021年11月から国産の新型車については自動ブレーキの搭載が義務化された。クルマは進化しているのに、事故がなくならないのはなぜか。
奈良の東大寺参道では25日、急発進した車が2人をひいて1人は死亡、もう1人は腰の骨を折る重傷だ。北海道北見市では26日、スーパーの駐車場で暴走した車が、停車中の車やスーパー入り口の支柱などに衝突して2人がケガをした。いずれも運転していたのは70代男性で、ブレーキとアクセルの踏み間違い(以下、ペダル踏み間違い)が原因だった。
交通事故総合分析センターによると、ペダル踏み間違い事故は2022年の1年間に3050件発生。48人が死亡し、4289人がケガをしている。事故そのものはこの10年で半減したが、事故件数も死傷者数も決して少なくはない。
■年代別割合は20代が全体の2位
ペダル踏み間違い事故は、今回のように高齢者のイメージが強い。しかし、現実はそうではなくて、若い人もかなりいるのだ。センターの調査で事故を起こした運転手の年代は、70代23.4%、80代13.6%と目立つが、そこに割って入るのが20代で14.7%。
ペダル踏み間違い事故が20代と高齢者に多いのは22年だけでなく、以前から見られる傾向だ。同センターは18~20年のペダル踏み間違い事故を分析。軽乗用車または普通乗用車が事故の第1当事者となった死傷事故9738件のうち、最多は75歳以上の2080件で、65~74歳の1870件、24歳以下の1613件が続く。20代前半と高齢者が突出している。ほかの年齢でも、事件件数は3つの年齢より少ないながらも起きていて、ペダル踏み間違い事故は年齢を問わず要注意だ。
自動車ジャーナリストの横田晃氏が言う。
「ペダル踏み間違い事故の原因で多いのは、『乗り慣れない車』『思い込み』『運転中の軽微な不具合や事故によるパニック』などがあります。こうしたキッカケに加え、ブレーキとアクセルのペダルを踏む足の置き方の基本がおろそかだと、踏み間違いがより起こりやすくなるのです」
同センターは22年に発表したリポート「イタルダインフォメーション№137」でペダル踏み間違い事故の事例を解説している。それによると、ペダル踏み間違い事故が生じやすい状況は、①駐車場などで方向転換や駐停車しようとしていた②信号交差点手前の停止車両の後方を進行していた③路外施設から道路に進出しようとしていた④信号なしの交差点に進入しようとしていた⑤カーブ進行していた、だという。
■運転席で体を右にひねると右足がアクセルに
これらの事例を含めて横田氏に傾向と対策を聞いた。
①の駐車場などでの方向転換は、苦手意識を持つ人も少なくない。そんなありふれた状況でリポートが紹介したのは、40代女性がATの普通乗用車で路外施設の駐車場から出ようとしたシーンだった。
●駐車場からバックで出る際、早く行こうと焦るあまり、いつもより強めにアクセルを踏んで、後方確認を怠り、電柱に後部が衝突した。
●電柱から離れようと、いったん前進。
●停止しようとブレーキを踏んだつもりがアクセルで、前方に暴走して建物の外壁に衝突した。
「このケースでドライバーが後方確認を怠っていたのは論外ですが、窓を開けて後ろを向くなど上半身を右にひねると、体の連動で太ももが外に開いて右足のつま先がアクセルペダル側に近づきやすくなります。車庫入れや出庫のときに切り返しが多いとペダルの踏み替え操作が多くなり、事故が起こりやすいのです」
①では、後退時にアクセルを踏んだことで、前進時もアクセル操作を続け、停止時にブレーキに踏み替えるときに、踏み替えがうまくいかなかったと考えられるという。その踏み替えに失敗した要因が新車だ。実は、車を購入してから2カ月だった。
「20代の若いドライバーがペダル踏み間違い事故を起こすのは運転技術が未熟なためですが、ベテランドライバーでも『車の買い替え時』はペダル位置の違いに体が慣れていなくて、事故が起こりやすくなります。さらに『電柱との軽微な衝突』などでパニックが重なると、本来踏むべきではないアクセルに気づかないままベタ踏みするのは、この種の事故の典型です」