能町みね子さんは「大相撲新時代」到来予兆をどう見るのか? 好角家ゆえの辛口意見も

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能町みね子(エッセイスト)

 3月13日に初日を迎える大相撲大阪場所。昨年は白鵬鶴竜の引退と入れ替わるように、7月場所後に照ノ富士が横綱昇進。快進撃が続くかと思いきや、先場所は御嶽海が賜杯を手にし、大関昇進を果たした。2018年から昨年までの4年間で8人が初優勝と新時代の到来を予感させると同時に、大相撲そのものの人気、在り方にも変化が出てきた。NHK「ニュース シブ5時」で相撲コーナーを持つ業界きっての好角家に話を聞いた。

 ◇  ◇  ◇

 ーーまず今場所についてうかがいます。先場所、横綱連覇が「2」でストップした照ノ富士はどうですか。

 昨年7月場所後に昇進したばかりで、まだ30歳。爆弾を抱えているヒザ次第ですね。大関陥落前から横綱候補と思っていましたが、どん底まで落ちたことで慎重な相撲を取るようになった。相撲ぶりも正攻法の横綱らしい相撲。楽して勝とうというのが、あまりない。楽して勝つ相撲はリスキーだからやらないのかなとも思っています。小手先で相撲を取ると、敗れたときなどにかえってヒザを痛めてしまうのではないかという不安があるように思えます。照ノ富士関は不器用ではないし、やろうと思えばできるからこそ、あえて「不器用だから」と言うことで自分を戒めている印象です。

 ーーそんな照ノ富士を先場所破った御嶽海が、大関に昇進しました。

 ますます御嶽海関という力士がわからなくなりました(笑い)。「絶対に上に行くぞ」という気持ちがあまり強くないのかなと思っていたんですが……、反省ですね。もっとよく相撲を見ないと(苦笑い)。相撲自体は非常に美しい。相手の力を吸収するように、密着してからすっと前に出る。最初に自分の形にならないとあっけなく負けるパターンもありましたが、本人なりにケガをしない、むちゃをしないためのやり方だったのかなと思います。

■今場所イチ押しは19歳の十両 熱海富士

 ーー今場所、能町さんイチ押しの力士は?

 伊勢ケ浜部屋の熱海富士関ですね。19歳ですが、先場所後に十両昇進。押しからの右四つが得意で、勢い任せではなく安定感がある。キャラも立っていますし、顔も可愛い(笑い)。下の名前も朔太郎と、また印象的です。他にも幕下の大辻くん(高田川部屋)と吉井くん(時津風部屋)にも注目しています。2人とも18歳で幕下上位と幕下中位。5年後は三役になっているかもしれません。

 ーー三役といえば、今場所は関脇に若隆景と阿炎、小結に隆の勝豊昇龍。幕内筆頭にも業師の宇良がいるなど、若々しい顔ぶれです。

 これまでにない斬新さがありますね。宇良関も近いうちに三役に上がってくるのではないでしょうか。平幕上位には大栄翔関、明生関、霧馬山関もいます。このあたりも実力は互角だし、相撲に個性がある。三役も含めて、誰が上がってくるのか。予想外の意外な力士だって出てくるかもしれない。そうしたワクワク感は去年や一昨年よりもありますね。

 ーー長年土俵に君臨していた白鵬(現間垣親方)が昨年9月場所で引退した影響もあるのでしょうか。

 重しが取れたというか、何かフタが外れて風通しが良くなった印象はありますね。ここ3、4年は大相撲が停滞というか沈滞していた。確かに初優勝力士は多いですが、番付の新陳代謝が良くなったわけではありません。白鵬関の言動に毀誉褒貶があったのは事実です。それでも、こと相撲においては格が違っていた。合気道的というか……、戦う前から気合、気迫で勝り、対戦相手に「こりゃ勝てないだろう」と思わせるものがあった。なかなか若手が出てこれないモヤッとした時代が続いていました。今の土俵は照ノ富士関以外に分厚い壁があるわけではない。だからこそ、力士も「ワンチャンスあるぞ」と前向きになっている印象ですね。

SNSを駆使した相撲協会の路線変更でファンが戻った

 ーー大相撲そのものも随分変わった気がします。若貴全盛期だった1990年代の相撲は今以上に力士がギラついていた印象がある。

 それは私も思います。時代が変わったこともあるし、何よりも大相撲の売り出し方が変わってきたのではないでしょうか。

 ーー売り出し方と言いますと?

 大相撲は10年の野球賭博問題、11年の八百長騒動で、人気はどん底に落ちました。そこから再びファンが戻ってきた要因のひとつが、SNSだと思うんです。

 ーー確か当時は巨漢の新鋭・逸ノ城やザンバラ髪イケメン・遠藤が話題になっていましたが……。

 でも、若貴時代のようなアイドル的存在だったかといえば、そこまでではありません。遠藤関や逸ノ城関が出てきた時期と、相撲協会が公式ツイッターで力士の可愛い写真などを上げ始めた時期が重なっているんですね。力士のパーソナルな部分や可愛い部分、そうしたものを協会が積極的に出してくるようになったんです。そこに30代、40代の女性が食いついた。それが今の人気につながっている。協会公式ユーチューブや親方ちゃんねるでも、ワイワイガヤガヤ楽しい動画の配信が多い。こうなると、昔のようなギラギラ感は減りますね。さすがに明日戦う人とニコニコ笑い合っているのはどうかと思いますが……。

 ーー弁が立つ力士も増え、「無口な勝負師」といったイメージはステレオタイプになっています。

 昔はショービジネスとは思えない態度の力士、親方もいました。ワーッと寄ってくる子供を邪険にする人までいましたから。その点では今の時代の方がいいに決まっています。稽古見学だって、昔はよほどのツウか地縁のある人くらいしか行かなかった。そのハードルもどんどん低くなっています。窓が大きく、外から見学しやすい荒汐部屋のような部屋もあります。

 ーー尾車部屋が閉鎖され、元横綱稀勢の里が「二所ノ関」を襲名するなど、相撲部屋にも世代交代の波が来ています。

 若い親方には「頼りになる兄貴分」的な雰囲気がありますね。昔のように、「何かあればゲンコツでわからせる絶対的存在」ではなくなった。相撲部屋にチーム感が出てきたのも近年です。昔の大相撲は上意下達、修業の場といった印象がありましたが、今は相撲部屋自体がスポーツのチームのようになっている。その影響なのか、部屋にちなんだしこ名を付けて統一性を重視する部屋も増えています。かねて佐渡ケ嶽部屋の「琴」や春日野部屋の「栃」などの例がありましたが、今はさらに玉ノ井部屋の「東」、追手風部屋の「翔」、九重部屋の「千代」など、チーム感が増している。

■「勝手に“解説3横綱時代”と呼んでいます」

 ーー相撲中継の解説陣に白鵬、鶴竜、稀勢の里の3横綱がいるのも時代の流れですね。

 私は勝手に「解説3横綱時代」と呼んでいます(笑い)。白鵬は「今の部分、映像を止めてもう一度見れないですか」と、細かく動きを見て力士を褒める。稀勢の里も快活で基本的に褒める解説です。一方、鶴竜はどちらかというとぼやき口調で辛口です。そのどれも個性があるので楽しいですね。気がかりなのは3月中に80歳になる北の富士さんの後継者。年齢も年齢なので、いつ解説から身を引くかわからない。個人的にはアベマTVで解説をしている若乃花(花田虎上)さんが後継者になってほしい。元横綱ということで説得力もあるし、何より協会に所属せず、協会に物申せる解説者も必要だと思っていますから。

 ーー大相撲が変わりゆく中でも、変えてはいけないものもある。

 もちろん、大相撲や相撲協会に言いたいことはたくさんあります。例えば平幕が勝ち進んでもなかなか上位と当てず、終盤に慌てて大関、横綱と当てる取組編成のまずさ。実は昔の方が中日くらいから、好調の平幕を上位とバンバン当ててたんです。近年は平幕優勝が多いとはいえ、上位とほとんど対戦しないまま「幕内最高優勝」というのもおかしな話ではないでしょうか。しこ名も、漢字の本来の意味からはとても読めない無理な当て字が増えてきて、ちょっとどうかなと。大相撲は伝統の世界。時代に合わせつつも、良い伝統は残していってほしいですね。

(聞き手=阿川大/日刊ゲンダイ)

▽能町みね子(のうまち・みねこ) 1979年、北海道生まれ、茨城県育ち。2006年デビュー。「結婚の奴」「皆様、関係者の皆様」「私みたいな者に飼われて猫は幸せなんだろうか?」など著書多数。月刊誌「相撲」に「大相撲中継中継」を連載中。

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