「アフガンの息子たち」エーリン・ペーション著 ヘレンハルメ美穂訳
「アフガンの息子たち」エーリン・ペーション著 ヘレンハルメ美穂訳
アフガニスタンに行ったことはない。でもアフガニスタン出身の人には何度か会ったことがある。パリの路上、難民たちに食料を配っている場所で。テヘランの下町、NPOが運営している寺子屋で。そこでは正規の学校に通う資格をもたないアフガン移民の子どもたちに勉強を教えていた。東京でも、タリバンから逃れるために来日したと語る一家にお会いした。
わたしが会ったアフガニスタン出身者はみな「逃げてきた人」だった。40年以上も紛争や自然災害にさらされて、いったいどれほどの人が国外に逃げたのだろう。その国の名を聞いて、思い浮かぶのが「逃げてきた人」ばかりだなんて、ほんとに悲しい。
今回ご紹介するのはスウェーデンのヤングアダルト小説。舞台は未成年の難民を収容する施設、そこでの日常が新人職員の目を通して描かれる。この静かで切ない物語のなかで、わたしはまた印象的なアフガン人と出会った。いくつもの国境を越えて北欧まで逃げてきた14歳のザーヘル、17歳のアフメドとハーミド。彼らは祖国で経験したことを決して語らないが、3人とも精神科で薬を処方されている。
それでも10代の少年たちの日常はにぎやかだ。海に飛び込んではしゃぐ。自転車で疾走する。テコンドーを習う。コンドームをねだる。18歳の誕生日を祝う。そして移民局に呼び出される日がやってくる……。
著者は移民局や難民支援施設で勤務した経験をもち、本作で作家デビューを果たしたという。世界のつながりを伝えてくれる彼女の小説をもっと読みたい。ほかの作品もぜひ翻訳してほしい。
(小学館 1980円)