正社員になり昇進も 後進を育てる夢を叶えぬまま旅立った
しかし、その夢ははかなく消えた。がん細胞は加藤の肉体をむしばみ、5月に入院したときはすでに手遅れ。悪質な直腸がんのため、3カ月の余命だと宣告された。
「ぼく、まだ生きていますよ。もうすぐ退院できますから……」
残り少ない命だとも知らず、病床の加藤はそう言って見舞客を前におどけた。だが、医師の宣告よりも1カ月早い、82年7月24日の土曜日。加藤武司は死去。希望と無念さをこの世に残したまま、天国に旅立ったのだ。享年40――。
▼かとう・たけし 1942年、愛知県生まれ。早稲田大学卒業後の65年春にソニー入社。68年メキシコ五輪体操団体金、ゆか運動銅、個人総合5位。66、70年の世界選手権団体優勝に貢献。