「世界ぐるぐる 怪異紀行」奥野克巳監修、川口幸大ほか著
「世界ぐるぐる 怪異紀行」奥野克巳監修、川口幸大ほか著
アフリカ出身の友人と話していて驚いたことがある。彼はかつてある政党の党員だったが、それを同胞には隠している。「敵対する政党の支持者に知られたら毒を盛られるかもしれないから」と言うのだ。ひえ~、毒を盛るとは恐ろしや! わたしは青酸カリとかトリカブトをイメージして震えあがった。しかし後日、アフリカに詳しい文化人類学の先生から「それは呪術の毒かも」と指摘されて膝を打った。おぉ、なるほど、その可能性もあるか。でも呪術ならばなおさら恐ろしい。
今回ご紹介するのは、9人の文化人類学者が世界各地で体験した怪異や呪術をつづった本。その「はじめに」で奥野克巳さんは説く。文化人類学では呪術を非合理的で非科学的な迷信だとは考えない、と。なぜなら当人たちは呪術をリアルに生きており、原因となった行動と結果は合理的に結びつけて考えられるからだ。まずこのくだりでうなる。わたしたちの周りにも占いやおはらいや怪談や縁起ものがある。確かにそれらはときに「リアル」で「合理的」だもんなぁ。
本書に登場する人たちはいずれも怪異と真剣に向き合っている。それぞれの土地で暮らす民も、そこにお邪魔している研究者たちも。すると怪異を信じる効能が見えてくるのが本書の醍醐味だ。失敗した人を責めず、目に見えない妖術のせいだと思えば社会はつらくない(ベナンの妖術師)。妖怪に襲われないためには人が孤立した状態をつくらないことが大切(中央オーストラリアの人喰いマムー)。すごいなー、怪異は。
あぁそして。世界はこんなに広いのに、人間はとてもよく似ている。 (河出書房新社 1562円)