「西洋古典 名言名句集」西洋古典叢書編集部編
「西洋古典 名言名句集」西洋古典叢書編集部編
わたしは仕事にとりかかるのが遅い。今だってこの原稿を書き始めようとして、その前にお茶を入れようとキッチンに行き、なぜか鍋を磨いて戻ってきたところだ。何事も始めるまでがたいへん。ギリシャのことわざが言う通り「始めは全体の半分」である。アリストテレスはこれを踏まえて言ったらしい──「思うに、『始めは全体の半分』以上である」。偉大な哲学者も仕事を始める前にモタモタしたのだろうか。
さて今回ご紹介するのは、京都大学学術出版会が誇る膨大な「西洋古典叢書」シリーズからすくい上げられた名言集。寝転がってパラパラとページをめくっているだけでも、脳みその上を知的な風が吹き抜けていくありがたーい一冊だ。「愛」「悪」「怒り」などと50音順の項目別に名言が並び、出典も原文も完璧に網羅されている。いろんな楽しみ方ができる本だが、わたしは「推し」を見つけてしまった。
「恋する人の財布は、その口を葱の葉で締められている」は、恋をすると財布の紐がゆるくなるってこと。「牛につくハエは耳のところにたかる」は、追従者はまず相手の耳にたかるという意味。この2つともプルタルコスの著書から引いたものらしい。ほかにも、プルタルコスの名言はどれもおもしろい。帝政ローマの著述家プルタルコス、いいね、気に入った!
コラムも興味深い。たとえばプラトンらの著作に登場する謎めいた鳥カラドリオス。中世の物語では、病人が持ち直すか寿命が尽きるかを判断する鳥として描かれ、これが三遊亭円朝の落語「死神」のルーツらしい。プラトンと円朝にそんなつながりがあったとは。
(京都大学学術出版会 2640円)