病院への搬送がプラスに働いた98歳一人暮らしの元女優
「お見舞いに行った時は、あでやかな黄色の洋服に同色のヘアバンドというファッションで出迎えてくれました。セピア色の世界を施設で築いているのです。あの時、病棟の担当医が口の中に指を入れなかったら、彼女は私の指導の下で、自宅に身を置くことになったはず。そうなると、今のような人間らしい生活、輝いていたひと時に浸る生活は送れなかったのではないかと思います」
■透析を中止し2週間後に亡くなった女性
一方で、積極的な治療を受けないことを選択し最期を迎える人もいる。8年間、週3回の透析を受けていた94歳の女性は、1回あたり数時間の治療が苦痛だった。
「最後の数年は透析に通うのが嫌だと泣いていました。その長男も透析の中止を強く希望され、何度も話し合いを続けた結果、2人の意思を尊重する決断をしました」
2週間後、彼女は帰らぬ人となった。
それまでは毎日、禁忌となっていた好物のグレープフルーツジュースをおいしそうに飲んでいたという。
「医療に正解はありません。さまざまな形があるのです」
それだけに、どう判断して決断するのかは、誰にとっても難しい選択になる。