腰<下>「立ち上がりエクササイズ」で骨盤の柔軟性を保つ
X線などの検査をしても脊柱(背骨)に異常が見られず原因がわからない腰痛は、「腰回りの筋肉の凝り(硬直)」が大きな原因になっていることが多い。腰の「凝り」は「痛み」として脳に伝えられ交感神経が刺激されることで血管が収縮して、さらに筋肉の凝りをひどくさせる悪循環を引き起こす。
この悪循環を断ち切ることが腰痛の予防対策になる。そのためには前回紹介した「ストレッチ」が有効だが、腰回りの「筋トレ」も重要になる。「1回1分 腰痛が消える ちょいトレ」(三笠書房)の著者である「戸田整形外科リウマチ科クリニック」(大阪府吹田市)の戸田佳孝院長が言う。
「腰痛予防に筋トレが必要なのは、脊柱を安定させる筋肉が弱くなってくると腰椎や骨盤にちょっとした負担がかかるだけで腰痛を引き起こすからです。腰痛予防の筋トレでは、胴体の中心にあるコア(芯)を支える筋肉を鍛えることが大切です」
筋肉に効く運動には、息を吸ったり吐いたりしながら行う「有酸素運動」と、息を止めて力を入れる「無酸素運動」がある。ウオーキングなどを習慣にしている人も多いが、有酸素運動で筋力を増強するには長時間運動する必要があるため、高齢者や肥満者では、かえって腰や関節を痛めてしまう可能性がある。
戸田院長が考案し、腰痛患者に実践してもらっている「ちょいトレ」の「筋トレ」は、自分の体重を「抵抗力」としてトレーニングする無酸素運動。紹介してもらうのは「立ち上がりエクササイズ」と「コアエクササイズ」で、道具や場所は必要なく、コアとなる脊柱を安定させることができる。やり方はこうだ。
■立ち上がり エクササイズ
①自然な状態で床の上に立つ。そして、かかとを床につけたまま、ゆっくりとしゃがみ、お尻を床につける。このとき、できれば手を床につかないようにする。
②その状態で今度は、ゆっくりと立ち上がる。このときも、かかとは床につけたまま、できれば手を床につかないようにする。コツはかかとを体に引き寄せて、かかとに体重を乗せると立ち上がりやすい。これを1日1回から始めて、慣れてきたら1日3回まで徐々に増やしていく。
ただし、「手を床につかないと、無理」という人も多いはず。その場合は無理せず、手や膝を床についたり、テーブルなどにつかまったりしながら行ってもかまわない。足首が痛くなったり、膝が痛くて座れないという人は、無理して行わないようにしよう。
「この筋トレは椅子に座る時間が長く、腰痛を繰り返す人にオススメです。腰痛を起こす人は骨盤回りの筋肉が硬くなっており、骨盤の柔軟性が失われています。床に座っているとき、骨盤は横に倒れています。その状態から立ち上がるときには骨盤が前に傾きます。そして立ち上がったときに、骨盤は床に対して縦になります。この動きを繰り返すことで、骨盤の動きが柔らかくなっていくのです」
昔の日本人は和式の床や畳の上で生活していたので、座った状態から立ち上がったり、立った状態から床に座ったりするたびに、骨盤周辺や下半身の筋肉が鍛えられていた。ところが洋式の椅子に座る生活スタイルが増え、日常生活で骨盤周辺や下半身の筋肉を鍛える機会が減っているのだ。
■コアエクササイズ
体の芯である「脊柱」を安定させるための筋トレになる。腰痛は長時間座っていることなどが原因なので、体の芯にある瞬発力を担当する最大筋力を鍛えるより、「持久筋力」を高めることが重要になるという。
この筋トレの方法にはいくつも種類があるが、特にオススメなのは「サイドブリッジ」という方法。やり方はこうだ。
①横向きに寝る。そして、下側の肘と下側の爪先の2点で体全体を持ち上げる。
②上側の手は腰に置き、上側の脚は伸ばす。この状態を20秒キープ。
これを左右1回ずつ、朝夕、1日2回行う。
「通常のサイドブリッジが20秒できない人は、肘と膝を立てて体全体を持ち上げる『立て膝サイドブリッジ』で、20秒やってみてください。それも難しい人は、立った状態で肘を壁につき、同じ側の爪先で片足立ちをして反対側の膝を伸ばす『壁どん! サイドブリッジ』から始めるのでもかまいません」
腰痛を防ぐ「ちょいトレ」、少しずつでいいので挑戦してみよう。