「自動車の社会的費用・再考」上岡直見著

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 現在の日本では、大都市を除いて自動車の利用が前提となり人々の生活が成り立っている。自動車を持つことが、半ば強制になっていると言っても過言ではない。しかし、クルマ社会の負の側面は年々拡大している。

 日本のモータリゼーションは1960年代以降だが、74年には経済学者であり東京大学名誉教授であった宇沢弘文氏が「自動車の社会的費用」を上梓。クルマ社会が拡大することで道路建設による自然破壊や排ガスによる環境破壊、自動車事故による死亡者の増加といった“コスト”が増大することについて論考し、警鐘を鳴らしていた。

 しかし現在に至るまで、誰もが容易に自動車を保有し、かつ簡単に運転できる環境を整備し続けてきた日本。その結果、人々の暮らしや地域で問題が浮き彫りになってきたと本書は述べている。

 例えば、公共交通の縮小である。自動車の普及は、鉄道やバスなどとりわけ地域の日常の移動に必要な公共交通を破壊してきた。80歳を過ぎても、自分で自動車を運転しなければ買い物もままならないという異常事態である。

 さらに68年、奈良女子大学・生活環境学部教授である湯川利和氏が著した「マイカー亡国論」では、マイカーを前提として無計画に拡散した都市群が形成されると、災害が発生した場合に深刻な渋滞が起こり、避難が困難になることを警告していた。2011年、東日本大震災ではこれが現実のものとなってしまい、車列ごと津波に巻き込まれた事例も報告されている。

 ほかにも、騒音や大気汚染、気候変動の観点からもクルマ社会の弊害を論考する本書。持続可能な社会を目指すためにも、自動車依存を転換すべき時だと述べている。

(緑風出版 2970円)

【連載】ポストコロナの道標 SDGs本

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