新型コロナ変異株「BA.2」対策は空気感染を意識して換気徹底を 医師が解説
一時のピークは過ぎたものの、新型コロナウイルス新規感染者数は高止まりが続いている。これまで主流だったオミクロン株「BA.1」に比べて感染力が26~39%も高いとされる「BA.2」への置き換わりが進んでいるのが一因だ。新年度を迎えて人流が活発になり、大型連休も控える日本では、アッという間に再び感染が広がる恐れがある。あらためて感染対策を徹底したい。東邦大学名誉教授で循環器専門医の東丸貴信氏に聞いた。
「BA.2への置き換わりが確実に起きている」 先月30日、新型コロナ対策分科会の尾身茂会長はそう口にした。
実際、同31日時点での東京都の新規感染者のうち、「BA.2疑い」と判定された割合は52.3%まで上昇。4月中には国内の主流株はBA.2に置き換わると予測されている。
すでに置き換わりが進んでいる米国では、BA.2には効果が期待できないとされる新型コロナに対する中和抗体薬「ソトロビマブ」の緊急使用許可が一部地域で取り消されている。
「ワクチンも2回接種ではほとんど感染予防効果はないという報告があります。また3回目の接種をしていれば、BA.2に対するワクチンの効果は接種後1カ月で74%あるとされますが、10週以降になると49%に低下するのです。さらにBA.1に感染した人がBA.2に再感染するケースもあります」
BA.2は、BA.1よりも感染力は強いが、重症化率や死亡率は同等か弱いといわれる。オミクロン株はデルタ株に比べ、肺への侵入が10分の1程度なことから間質性肺炎を起こすケースは少なく、50~90%程度が無症状か軽症とされる。嗅覚障害も出にくく、のどの痛みが主症状のことが多い。
「しかし、感染者数が増えれば、それだけ重症者も死亡者も増えます。さらに、都内では10歳未満の子供が新規感染者の2割以上を占め、感染経路を見ると、家庭内感染が73.2%に達しているのです。現状でも、感染者数が多いことで有症者が入院できず、自宅で急変して亡くなるケースがあります。第6波ピーク時には、コロナ患者で急性期高度医療機関が手いっぱいになり、他の重篤な病気の患者が切り捨てられていました。やはり、感染を防ぐことが何より重要なのです」
感染力が強いBA.2に対し、より意識すべきなのが「換気」の徹底だ。新型コロナウイルスが空気感染する可能性が高いことは、パンデミックが始まった2020年2月ごろから中国で指摘されていた。7月ごろには世界的医科学誌「クリニカルインフェクシャスディジーズ」「ネイチャー」「ランセット」などで次々と空気感染があると発表された。CDC(米国疾病対策センター)やWHO(世界保健機関)も、昨年5月ごろに空気感染の重要性を強調するようになった。そして日本の国立感染症研究所も今年3月28日にようやくホームページで公表した。
国立感染症研究所も公表
「国立感染症研究所はこれまで空気感染経路を重要視せず、飛沫感染と接触感染を主な感染経路としていました。しかしここにきて、ウイルスを含んだ空気中に漂う微粒子(エアロゾル)を吸い込んでも感染すると公表したのです。会話、咳、くしゃみなどで鼻や口から排出された飛沫は、空気中で水分が蒸発して乾燥し、飛沫核という5マイクロメートル以下の微粒子になって、数メートル以上にわたり空中を漂います。この飛沫核に含まれたウイルスが鼻や口から侵入し、感染させるのが空気感染(飛沫核感染)です」
感染力の強いBA.2に対しては、空気感染を防ぐことが重要になる。
「室内を長時間漂う飛沫核を屋外に排出する必要があります。換気が1時間に2回以下になると、ウイルスの拡散に有意な関連があると報告されているので、完全な換気を1時間に2回以上の頻度で行うのが理想的です。換気は部屋の対角線上にある窓やドアを開けると、空気の流れができて効率が良くなります。外気を取り入れながら、エアコン、扇風機、空気清浄機を使って換気を補助するのも効果的です。温かい空気は部屋の上、冷たい空気は下にたまります。扇風機や空気清浄機の風向きを斜め上方向に向けて空気を拡散するといいでしょう」
感染対策としてある程度の飛沫を防げるマスクの着用は重要だが、過信は禁物だ。
「東大医科学研究所の研究では、不織布マスクをしている場合、50センチ離れた時に排出するコロナウイルスは70%以上減りますが、飛沫や飛沫核で侵入するウイルス量は47%程度しか減らせませんでした。換気が悪い室内では、たとえ人と人の距離を1メートル以上あけても、飛沫核が室内を循環するため感染リスクが高くなるのです」
会食会合で同じグループ内での感染をマスクで防ぐのは困難だが、換気をよくすれば、他のグループに感染させることはない。BA.2の感染の拡散を防ぐため、空気感染することを意識して、しっかり換気を実践したい。