疲労は「鉄」で回復 肉体だけでなく気分や感情の改善も
夏バテで毎年つらい。こう思っている人は、男女問わず、体内の鉄が不足している可能性がある。大妻女子大家政学部の川口美喜子教授に話を聞いた。
「疲労感と鉄は非常に密接な関係にあります。ところが、体内の鉄分量について調べる機会がほとんどないため、多くの人が鉄の重要性を意識していないのです」
川口教授が行った最新の調査に、次のようなものがある。社会人のサッカーまたはフットサルチームに所属する46人の男性を2群に分け、一方は1日3・6ミリグラムの鉄製剤を1カ月間摂取、もう一方は摂取なしで、発汗を伴う運動後の疲労状況を調べた。
すると、ネガティブな気分状態を総合的に表す指標では、鉄摂取群は64%低下。つまり心理的ストレスが6割以上低下したが、非摂取群は35%の減少だった。
また、運動後の疲労感では、鉄摂取群で「きつい」と回答した人は、36%から4%に減少。非摂取群は調査前後で変化がなかった。
「少量の鉄分を補うだけで、肉体的な疲労感だけでなく、気分・感情の状態も改善されるという結果が出たのです」
同様の結果は、ほかの研究でも出ている。日体大体育学部の杉田正明教授は、ホットヨガを週1回以上する女性42人を2群に分け、鉄摂取群と非摂取群で比較。鉄摂取群では疲労感、目覚めのよさがいずれも有意に改善された。非摂取群では改善は見られなかった。
鉄が疲労感と密接な関係にあるのは、全身の細胞に酸素を供給しエネルギーをつくり出す上で、鉄が不可欠だからだ。酸素は体内の鉄と結合し、赤血球のヘモグロビンとして酸素を細胞に届ける。鉄が不足するとそれが行われにくくなり、細胞が酸素不足になる。
「こぶし1個分の主菜と指先3つ分の副菜」
さらに鉄は汗で体外に流れやすいので、暑くなるほど鉄不足に陥りやすい。気温35度でウオーキングをすると1時間に1リットル以上の汗をかくが、鉄の1日の平均摂取量と比較すると、1リットルの汗で男性8~24%、女性17~32%の鉄が体から失われるという報告もある。
「鉄は食事で意識して取らないとすぐ不足してしまいます。実際、オリンピック日本人強化選手を対象とした調査で、女性選手の20%に貧血、つまり鉄不足が認められたという調査結果もあります。体内の貯蔵が少ない鉄を発汗で失うことで一層、鉄不足になり、疲労感として表れるのです」
厄介なのは、鉄不足が日常になると、「疲労している状態」が当たり前になってしまうことだ。そういう人が、鉄摂取を意識した食事を取り始めることで「なんだか体が軽くなった」と驚くケースは珍しくない。
「4~5日くらいで実感が湧いてきます。また、鉄は、よほどのことでない限り過剰摂取にはなりません」
体の代謝で0・8~1ミリグラムの鉄が1日に損失している。発汗などを考えると、プラス2ミリグラム前後、計3ミリグラムの鉄を毎日取るのが理想。
しかし毎日の食事で、鉄の量を考えながら取るのは現実的ではない。川口教授が勧めているのは「毎食こぶし1個分の主菜(タンパク質)、指先3つ分の副菜を取る」。鉄には動物性食品のヘム鉄と、植物性食品の非ヘム鉄があり、ヘム鉄は吸収されやすく、非ヘム鉄はタンパク質とビタミンCを一緒に取ると吸収しやすい特徴がある。
「主菜で肉や魚のタンパク質を取れば、そこにはヘム鉄が含まれています。副菜で野菜や海藻類を取れば、非ヘム鉄も摂取できます」
動物性食品でも、赤身肉やレバーなどの内臓類にヘム鉄は多い。内臓ごと食べられる貝類、ちりめんじゃこなどもヘム鉄を効率よく取れる。非ヘム鉄なら、海苔、ゴマ、ホウレンソウや小松菜、ヒジキ、納豆などだ。