誤解だらけの「スタミナ食」夏バテ対策には効果なし
今年の夏は、観測史上初めて猛暑日地点数が5日連続で200地点を超えるなど、全国的に厳しい暑さに見舞われた。9月に入ってもまだまだ暑い日が続き、どうにか8月を乗り切ったという人も、今になって夏バテの症状が表れるケースが増えている。そんな時、対策として「スタミナ食」を取る人も多いが、実は誤解だらけだという。「東京疲労・睡眠クリニック」院長の梶本修身氏に詳しく聞いた。
夏バテ対策のスタミナ食としてよく挙がるのが、ウナギ、ニンニク、豚肉、牛肉といった食材を使ったメニューだ。
夏バテは慢性疲労のひとつと考えられ、これらのスタミナ食は疲労回復に役立つとされている。しかし、実はいずれも効果は期待できないという。
「いわゆるスタミナ食にはビタミンB1をはじめとしたビタミン類が豊富に含まれています。ビタミンB1などのビタミンB群は、摂取した栄養素を体内でエネルギーに変えるために必要なビタミンで、ビタミンB1が不足するとスムーズに炭水化物=糖質をエネルギーに代謝できなくなり、疲れやすくなったり、食欲がなくなるといった夏バテの症状が表れます。ですから、ビタミンB1が疲労回復のために必要な栄養素であるのは確かです」
しかし、慢性疲労とビタミンB1の関係について科学的に調べた大規模研究はほとんど見当たらず、どのくらいの量を摂取すれば疲労回復効果があるのかどうかは、はっきりわかっていないという。スタミナ食は科学的根拠がないまま独り歩きしている状態なのだ。
「スタミナ食に多く含まれるビタミンB1や脂質は、食糧難でエネルギー不足による疲労が深刻だった時代では、疲労回復に役立ったのかもしれません。しかし、いまの日本は、食べ物をほとんど食べられないような状況はまずありません。ほとんどの人は意識しなくてもビタミンB1や脂質は十分に取れていますし、深刻な慢性疲労を招くほど不足するケースを心配する必要はないのです」
それどころか、むしろ逆効果になりかねないという。スタミナ食というと、こってりしていてボリュームがあるメニューも多い。そのため、消化吸収に労力が必要になり、自律神経に負担がかかる状態を招いてしまう。
「自律神経が酷使されると、それ以上は自律神経に大きな負荷をかけないようにするため、脳は『疲労感』を自覚させようとします。つまり、スタミナ食が疲労を呼び込むもとになってしまうのです」
疲労回復には鶏の胸肉が効果的
近年は、疲労回復のために栄養ドリンクやエナジードリンクを飲むという人も増えている。しかし、これも逆効果になりかねないという。
「栄養ドリンクやエナジードリンクにはカフェインが大量に含まれているものが多く見られます。また、微量のアルコールが入っている場合もあります。カフェインには覚醒作用があり、アルコールは気分を高揚させる作用があります。つまり、これらの作用によって疲労感を覆い隠すことで、疲れが軽減したと錯覚させているだけなのです」
本来なら自覚するはずの疲労感が隠されてしまうため、気づかないうちに疲労を蓄積させてしまう危険もある。栄養ドリンクやエナジードリンクで疲労をごまかすのはやめた方がいい。
では、疲労回復のためには何を食べればいいのか。現在、科学的に効果が認められている食材は「鶏の胸肉」だ。
「疲弊した自律神経を修復する『イミダペプチド』が豊富に含まれています。イミダペプチドには疲労を引き起こす原因となる酸化ストレスを軽減する抗酸化作用があり、1日200ミリグラムを約2週間摂取し続けると抗疲労効果があることが臨床試験でわかりました。イミダペプチドはカツオやマグロにも含まれていますが、鶏の胸肉には及びません。1日100グラム食べれば、1日の必要量を摂取できます」
夏バテを防ぐには、スタミナ食ではなく鶏の胸肉を選ぶべし。